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「それが、その、来ないわけがあるのさ」
「どうもおれは、身近かな者だと平気で診られないんだね」
「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」
正文は顎をつき出しては一寸笑つて、ふむ、ふむ、とひとりでうなづいていた。
「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」
徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。
熱心になっていた「な」の字さんは多少失望したらしい顔をした。
房一は立ち上つた。すると、着古しのワイシャツから下はズボンなしの毛むじやらな肥つた円つこい肉のついた脚がによつきりと出た。さつき河の中に入つたときに、ズボン下を脱いでしまつたのだ。
と後を追ふと、徳次は
男は面喰つて何を云はれているかはつきり判らないらしかつた。房一はその眼の中をしつかりとのぞきこみながらつゞけた。病院づとめの生活で、房一は患者の気持をのみこんでいた。たとへ病気がはつきりしなくても正直にありのまゝを云ふのは禁物だつた。病人は何か断定を欲するものだ。今の場合は別だが、十二指腸虫といふ名前さへろくに知らないこの男に、いきなりその病源を云つたところで疑はしく思ふのは明かだつた。
「失礼ですが、もしか、あなたは高間さんではありませんか」